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Vol.09
仲佐猛、キーマンとともに(その4)
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アンドレ・フー
デザイナー/AFSO代表


「この空間を作ったのは一体誰?」

仲佐のアタマの中に、一つの疑問が宿っていた。
2009年3月にオープンした「シャングリ・ラ ホテル 東京」のイタリアンレストラン「ピャチェーレ」、和食レストラン「なだ万」、そしてエグゼクティブフロア専用の「ホライゾンクラブ ラウンジ」に足を踏み入れた時のこと。後ほどこの3つの全く異なるスタイルのスペースは、一人のデザイナーによって手がけられたと仲佐は耳にした。

香港を拠点にするデザイナー、アンドレ・フー。
香港と英国で育ち、ケンブリッジ大学で建築を学びながらジョン・ポーソン氏に従事。その後は独立し、今や若干30代で数多くのラクジュアリー案件を手がける新鋭のデザイナーだ。
まだあどけない素顔が見え隠れするアンドレに、仲佐は疑問の元の一つとなった「ホライゾンクラブ ラウンジ」で対面。
彼のアタマの中に宿るデザインのあり方、デザインプロセスについて直撃した。(2009年7月)

文: 柳澤大樹(フリーエディター)
編集: 大原信子(株式会社ナカサアンドパートナーズ)



01.ケンブリッジ流建築教育

02.独自のミニマリズムの解釈
03.パッケージでデザインする
04.感情を踏まえたデザインを


写真アンドレ・フー(Andre Fu)

1975年香港生まれ。14歳のときに英国に渡り、2000年にケンブリッジ大学を卒業。同年、ロンドンにてデザイン事務所AFSOを設立。2004年に拠点を香港へ移し、以後レストランやブティックなど数多くのインテリアデザインを手がける。近年、ファッションやデザイン系の様々な雑誌にて「アジアで最も注目されるデザイナー」として取り上げられている。



01.ケンブリッジ流建築教育

写真仲佐:あなたは香港と英国で育ち、ケンブリッジ大学の建築学科を卒業しています。日本で建築は「工学部」というエンジニアリング的側面からの教育アプローチをしますが、ケンブリッジはSchool of Art and Humanitiesという人文科学的側面からアプローチをします。この教育の背景は今の仕事を行う上でどのような影響を及ぼしましたか?

アンドレ:ケンブリッジ大学では建築の理論に重点が置かれているような気がしました。歴史を踏まえた建築の教えにより、建築自体が人々の生活にどのような影響を与えるのかを理解することができました。この要素を実際のデザイン時に意識するようにしています。

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02.独自のミニマリズムの解釈

仲佐:ケンブリッジ大学在学中にミニマリズムの作風で知られている建築家、ジョン・ポーソンの下で働いていたと聞いています。彼の建築手法から影響は受けましたか?

アンドレ:ジョン・ポーソンといえば「ミニマリズム」として知られた存在ですが、「空間を作る」という建築的アプローチにおいて私と接点があるかと思います。多くの人が私とジョンの作風を比較しようとしますが、今回の「シャングリ・ラ ホテル 東京」の「ピャチェーレ」を見てわかる通り、このデザインは非常に華やかでジョンのものとは大きく異なります。ただ、デザインの手法の根底として私が考えることとして、どのように空間を作り上げ配分していくかということがあります。この観点からみた「ミニマリズム」においてはジョンと接点があると言えるでしょう。無論、白い壁に無垢な木を使うことがミニマリズムともいえるでしょうか、空間の使い方もミニマリズムを成す要素。ただ、私のデザイン・アプローチはさらに生活・ライフスタイルをより意識したものとなっています。

仲佐:そのような意味であなたの「デザイン・スタイル」はどのように定義できますか?

アンドレ:よく聞かれる質問ですが、実は私のデザイン自体には「スタイル」というものがなければ良いと思っています。映画監督の存在を例としてあげましょう。有能な映画監督は様々な種類の映画を撮影することができますが、それぞれの作品の根底には共通する「感性」が宿っています。「ピャチェーレ」はオールド・スクール、伝統的なスタイルのダイニングですし、「なだ万」はある意味詩的で、空想的なデザイン。「ホライゾンクラブ ラウンジ」は力強いトーンで旅をモチーフとして作られており、作りは異なります。しかし、それぞれの場に足を踏み入れた時、これらの根底としてAFSO、アンドレ・フーという感性のDNAが宿っていることを感じてもらえれば本望です。

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03.パッケージでデザインする

仲佐:このアンドレ・フーのDNAを宿らせる上で、デザインのプロセスで留意していることはありますか?

アンドレ:飲食店の案件では特にそうですが、実際にオペーレーションに携わる従業員や客層との会話を大切にします。仮にお店が素晴らしいデザインを持っていたとしても、制服や音楽、食事、サービスなどの店を成す要素のどれかが欠けていれば、そのデザインが最大限に引き立たない。そのため「パッケージ」で店の作りを考えるようにしており、多くの時間をこの「パッケージ的考え」を編み出すために費やしています。
私自身はグラフィックデザイナーでもなく服飾デザイナーでもありませんが、この考えを実践するべく、専門外の要素も考えるようにしています。「ピャチェーレ」で言えばメニューのカバーも壁の柄と同じものになるようにデザインし、カーペットの柄や照明も私が提案しています。確かに時間はかかりますが、建築のデザインが完璧に機能するにはパッケージで考えることが不可欠なのです。

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04.感情を踏まえたデザインを

写真仲佐:「シャングリ・ラ ホテル 東京」では、パブリックスペースや客室のデザインはハーシュ・ベドナー・アソシエイツが担当し、そこにアンドレ・フーのデザインが加わった形ですが、今後、全てをパッケージとしてデザインするプロジェクトはあるのですか?

アンドレ:香港で文字通り「すべて」をデザインするホテルのプロジェクトを行っています。香港のデベロッパー、スワイア・グループによる開発でアドミラルティにある複合施設、パシフィック・プレイスで新たに生まれるUpper Houseという小規模のホテルです。ミラノにある「ブルガリ ホテル」を想定してもらえればいいでしょう。このプロジェクトでは「ピャチェーレ」や「なだ万」とは異なり、さらにシンプルでミニマリズムを押しだしたデザインの手法をとっています。今年10月のオープンに向け、今はこのプロジェクトに労力を注いでいます。



取材協力:シャングリ・ラ ホテル 東京株式会社ワークテクト
文:柳澤大樹(フリーエディター)
編集:大原信子(株式会社ナカサアンドパートナーズ)