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Vol.08
“Japan Living” essence by 岩立マーシャ
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日本の住宅を紹介する書籍「Japan Living」。2008年9月に発売され、国内の書店はもとより海外の店頭にもあっという間に並び、国内でも海外でも日本の住宅建築に対する興味や期待感が伺える。本書の構成を手がけたのは、日本のデザイン業界、フード・ビジネスにおける先駆者でもある岩立マーシャ氏。
岩立氏と言えば海外と日本を行き来し、日本を「中」から見つめながら、外からも俯瞰できる希有な存在。
発売開始から1ヶ月が経った10月31日、東京・南麻布のartiショールームにてJapan Living出版記念パーティーを開催。そのパーティー直前に岩立氏が本書に込めた「特別」な思いを語っていただきました。(2008年11月)

文: 柳澤大樹(フリーエディター)
インタビュアー&編集: 大原信子(株式会社ナカサアンドパートナーズ)



01.ナカサアンドパートナーズとの出会い

02.ナカサアンドパートナーズの独自性
03.「Japan Living」構成時のメインコンセプト
04.「ビジネス」と「コンテンツ」のせめぎ合い
05.本作りへの想い
06.海外から見た日本の住宅と田舎の優位性


写真岩立マーシャ

日本のデザイン業界、フード・ビジネスにおける先駆者の一人。東京・ニューヨークのファッション広告分野において、アートディレクションに携わった後、東京の「春秋」をはじめとする東アジア地域の数多くのレストラン・プロデュースを手がけ、家具ブランド・artiのプロデュースも手がける。2008年11月ソウルWESTIN CHOSUN HOTEL内の和食レストランSUSHI CHOが完成。
有限会社MAREIの共同代表。共著の「Shunju」は2004年冬にJames Beard AwardにてBest Cookbook Photography賞を受賞。著書には「Japan Houses」、「Japan Living」、「Korea Style」など。



01.ナカサアンドパートナーズとの出会い

「結局ほとんどの写真がナカサアンドパートナーズ撮影だったんですよ」

 私が手がけた本で「Eat. Work. Shop.: New Japanese Design」があったのですが、この本が全てのはじまりでした。2004年に発売された本で、日本を代表する7人のインテリアデザイナーの作品を集めて一冊の本にしました。この本の写真は、デザイナーが保有していた竣工写真を寄せ集めて構成するという考えだったのですが、よくよく調べると、集めた写真のほとんどがナカサアンドパートナーズが撮影したものだとわかったのです。

 元々この本は限られた予算で作らなければならなかったという背景があり、仲佐さんにコンタクトをとり、事情を説明に伺って、協力を願ったところ快諾していいただき、あの本が世に誕生したのです。

 その後仲佐さんとは親交を深めていったのですが、ある日「竣工写真の寄せ集めで構成する写真集だけではなくて、撮り下ろしで構成した本もやっていただけますか?」と尋ねたところ「もちろん!」というお返事をいただきくことができました。

 当時は建築ブームで建築に関する出版物も多く発売された時期でした。しかしその多くが手持ちの竣工写真の寄せ集めで、一冊の本としての統一性がないのです。異なるカメラマンの元、異なるディレクションを経て撮影が行われているので、当たり前と言えば当たり前なのですが・・・。

 そこで「一貫性のある作品集を」ということで、今回の本の前作となる「Japan Houses」を仲佐さんと一から一緒に作る流れになりました。

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02.ナカサアンドパートナーズの独自性

「建築家の意図を把握し、ありのままのカタチを撮影してくれる」

 ナカサアンドパートナーズのカメラマンは建築家の目線に立って撮影を行っています。実際、仲佐さん自身も本当にデザインや建築が好きな方なんだな、というのをひしひしと感じます。また、ナカサアンドパートナーズに所属するカメラマンは建築を勉強された方も多いと聞いているので、そういう意味では建築を本質的に理解しているのではないかと思います。

今までいろいろなカメラマンと仕事をしましたが、勝手な解釈で撮るカメラマンもいます。ナカサアンドパートナーズは肉眼で見えたものをありのままに捉え、また建築家の意図を把握して撮影に臨む姿勢があること。これは大切なことです。

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03.「Japan Living」構成時のメインコンセプト

「住まいとして色のある住宅写真を。」

 前作の「Japan Houses」も今回の「Japan Living」もコルビュジェの名言「住宅は住む機械である」というコンセプトに乗っ取っています。静けさ、機能美や光、空間のバランス、建築家のアイデアにあふれた住空間を載せています。住み手の趣向が深く息づく住宅でもあり、高年齢化社会、第二の人生、DINKS、省エネ、ライフスタイルと結びついた多種多彩の趣味など、日本の社会の変化が強く反映されています。

日本の住宅写真の現状として一つ問題があるのは、ほとんどの写真が住人が引っ越してくる前に撮影されてしまうこと。無論、建築家としては住人の「色」が付く前に住宅を作品として撮影したいという気持ちは理解できます。ただ「住宅」という観点で考えた場合、生活感が全くない状態で撮影をするのはしっくりきません。竣工後の撮影は一般的に時間の余裕もありません。もちろん、施主のご協力がなければ出来ない事ですが、我々は一件、一件の建築にふさわしい季節、天候、時間帯を追い求めることが出来ます。

「Japan Living」では30件の住宅を掲載しましたが、全てが住人に愛されています。それが故に住宅として固有する「空気感」を撮影を通じて捉えることが要でした。

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04.「ビジネス」と「コンテンツ」のせめぎ合い

「多くの人に、わかりやすいカタチで見てほしい。けれど・・・」

 構成のスタイルですが、前作の「Japan Houses」は比較的、建築自体をフォーカスしました。その後出版社のタトル・パブリッシングの社長から「前回のJapan Housesはプロのデザイナーや建築家の購入が多かったので、今回のJapan Livingはデザイン業界外の方々にも手にとって欲しい。そのためには、インテリア要素やディテール、日本らしさを含んだ写真を増やしてほしい」と要請がありました。

Japan Housesの時は各物件の「図面」も掲載しました。実は米国の書籍の流通の仕組みで、図面が入っているとデザイン書ではなく「建築の専門書」とみなされ、書店で「建築」の棚に陳列されてしまうのです。本当は「ライフスタイル」といった、比較的業界外の層でも手に取りやすい棚において欲しかったのですが・・・。

 とは言え、図面があった方が写真と合わせて見たとき、住宅を3次元に把握することができるのでより深く空間を理解できるはず。そこで今回は図面を入れるか入れないかで出版社と議論を重ねました。結果、出版社からは「売れなくても良いのなら、図面を掲載しましょう」となり、私に判断が委ねられたのです。その後は熟考の末、今回は図面を外しましました。残念なのですが、多くの人に手にとってもらえなければ、本末転倒ですからね・・・。

本が校了を迎えた後に、出版社の社長に 毎回、こう言われます。
"We love your books. We love working with you. But your books are always impeccable in taste and not for the mainstream customer."(私たちはマーシャの作る本を愛していますし、マーシャとの仕事を継続したい。ただ、あなたの本は常に完璧なテーストで主流なマーケットには。。。)

 売り上げと伝えたいことの両立は難しい判断ですね。



05.本作りへの想い

「出版の仕事は毎回『これで最後にしよう』と思う。けど、やめられない」

 本作りって作業時間は長いし、出版社と度重なる議論があるので本当に途方に暮れる仕事なのです。毎回「今回で最後にしよう」と誓うのですが、不思議なモノでやめられない。私は本の他に商品カタログやポスターも手がけていますが、これらははかない物だな、と思うのです。けれど、本の存在は店舗のプロデュースと似ていて、完成するまでは私の世界なのです。そして一度完成した本や店舗は誰かの手に渡り、それぞれの命を持ち、感動を与えてくれる。極端な話、私の手から離れていても、その本やお店の内容は語り継がれていくわけです。感慨深いですよね。



06.海外から見た日本の住宅と田舎の優位性

「海外の人が想像する日本の住宅イメージを裏切りたい」

ここ数年、海外で注目を浴びている日本の住宅建築は狭小住宅です。外国視点だと、日本のエキセントリックな作りが面白くうつるようです。ただ、ひとつ言いたいのはこれが日本の建築のすべてではない。世界スタンダードでみてもこの種の他に素晴らしい建築が日本に存在するわけで、本作ではそのような作品を伝えたかったのです。

 ちなみに、世界スタンダードの住宅建築を探そうとなると都内にはあまり存在しませんね。大きな土地を持ち、まわりの環境と建築の調和を考慮するとどうしても地方になってしまう。また、感覚的にですが地方で家を建てられる方の方が建築に対する思い入れが強い気がします。空気感を大切にしているといいますか。一つの街で良い建築が建つと、その連鎖反応で同じ建築家の建物が近隣に建つという現象が起きています。このようにして良き建築のコミュニティが成されるということは日本にとって非常に有益だと感じます。
 
 しかしアクセスの問題があるので、海外の方が日本の良い住宅建築に触れるチャンスは限られてしまう。そんな背景があることから、本書が日本の良き住宅建築と海外との橋渡しになればと心から思います。



取材協力:artiショールーム(arti株式会社)
文:柳澤大樹(フリーエディター)
インタビュアー&編集:大原信子(株式会社ナカサアンドパートナーズ)