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Vol.07
仲佐猛、キーマンとともに(その3)
photo
仲佐 猛
ナカサアンドパートナーズ 代表取締役
新川 義弘
株式会社 HUGE 代表取締役社長


Your “casa” is ...
ナカサアンドパートナーズの英語表記“Nacasa & Partners”には、イタリア語の「家」にあたる「casa」が含まれている。それは、仲佐が住宅の撮影もしたいという意を込め、ナカサとcasaをかけて命名。一方、話題のレストランを数々運営している新川義弘氏。新川氏にとっての心のcasaとはまさに、自らが愛する人々が集うレストランのこと。そんな新川氏が、仲佐を前に心の「家」(casa)を語ります。(2008年7月)


きっかけは、タブローズ

水と火の融合による成功
期待値より少し上
六本木ヒルズで167坪の挑戦
サービスの原点


写真新川義弘(しんかわよしひろ)

株式会社 HUGE 代表取締役社長

1963年生まれ。1984年に長谷川実業(現・グローバルダイニング)入社。1988年、取締役に就任。2005年、同社を退職し、株式会社HUGE(ヒュージ)を設立し、吉祥寺のカフェ・リゴレットをはじめ、銀座のレストラン・ダズルなどを運営。




きっかけはタブローズ

仲佐:やっぱり僕たちの関係の原点は、代官山の「TABLEAUX(タブローズ)」だよね。

新川:グローバルダイニング勤務時代のことですね。元々僕は三宿「ZEST(ゼスト)」の店長を担当していたのですが、そこで中道さんに店を撮影をしてもらったんです。そんな経緯があって仲佐さんのことは「タブローズ」ができる前から存じ上げていました。僕のことを他の親しいお客様と同様、「ヒロ」って呼んでいただいて、頻繁に会話をするようになったのは1992年。きっかけは僕が開店当初から店長を務めたダイニングレストラン、「タブローズ」ですね。

「タブローズ」は会社としても僕個人としても、またダイニング業界としても、新たな時代を切り開いた感があるんです。考えてみてもくださいよ。僕は元々、「ZEST(ゼスト)」という三宿のメキシコ料理屋のオヤジ(店長)だったわけですよ。そんなオヤジにロサンゼルス・スタイルのレストランが託された。グローバルダイニングの社長・長谷川さんも最初は「新川で任せられるのか?」と、すごく不安だったみたいです。

また、当時の時代背景を考えても、お店のインテリアといい、スタイルといい、かつて存在しないものだった。とにかくハイパー、とんがりすぎちゃっていて、開店当初は逆に流行らなかったんです。内装は「タブローズ(tableaux)」(フランス語で絵画)というだけあり、壁一面に絵が描かれている。また、ご飯もイタリアンともフレンチとも言い切れない。とりあえず「とんがった店です」としかいってない。(笑)けど一年我慢すれば、絶対にヒットすると確信していたんです。この自信がどこから生まれたかというと、かつて無いほどとんがった店を作り上げたというのもありますが、常連のお客さまのリピート率がすごかったんです。週1ペースで来てくれるお客様がたくさんいて、その人たちが次々と友達を連れて来てくれた。このクチコミの流れをみて、ある種の「とんがりの確信」を得ましたね。

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水と火の融合による成功

photo仲佐:僕の「タブローズ」に対する一番の思い出は、映画「007シリーズ」のジェームズ・ボンド役でお馴染みの俳優、ピアーズ・ブロズナンがお店に来た時なんだよね。新川さんは彼が来店したら、映画でボンドがよく飲む「ボンド・マティーニ」をしれっとサーブした。思わず僕は立ち上がって拍手しちゃったよ。(笑)そんな新川さんの機敏の良さが「タブローズ」を成功に導いたのかな?

新川:「タブローズ」を始める時、アメリカに1、2ヶ月間研修に行ったんですよ。当時のアメリカは大皿料理がガツンと出てくるのをみんなでシェアするという豪快なスタイル。まさに前菜と主菜で終わりというイメージでした。我々日本人がいきなりそんなスタイルに合わせられるかというと、一汁三菜の文化で育っているわけだから難しい。ましてや、シェアという発想も当時はないわけです。しかし、アメリカ風のダイニングカルチャーは、いずれ日本人にも受けると思った。そこでどのようにして雰囲気を保ちながら日本人の食生活に合ったスタイルを確立できるかが課題でした。もちろん、ボンド・マティーニをサーブするときのようなスマートさも忘れずにね。(笑)

photoそこで考えたのが、「どれだけ大皿を小分けにできるか」ということ。ワン・サービングが大きなパスタなどを、人数分に小分けした形でオーダーできるようにしました。ウエイターはお客さんがやりたいことを具現化するのが仕事。けれど「小分けにする」っていうのは厨房にとってはものすごく負担になることなんです。そう考えると本来、ホールとキッチンは水と油。この水と油をうまい具合に融合してお互いのモチベーションを上げるように努めました。キッチンの一番奥でキャベツを千切りしている奴がウエイターの気持ち、要はお客さまの気持ちをくみ取って「こんにちはー!」って心から言えるかが要です。そんな大変な環境の中、「タブローズ」のメンバーは負担も顧みず頑張ってくれた。これが「タブローズ」が当たった要因だと思っているんです。

それから、先にも言いましたが常連のお客さまのクチコミパワーもすごかったです。当時は良い店を知ろうと思っても情報誌がなかった。クチコミがいわば「ホットペッパー」や「ぐるなび」のような存在だったわけです。結局、開店から1年近くかかりましたが、その後は予約の電話が止まらなりました。これは今でも当時を思い出すだけで「ゾクっ」としますね。

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期待値より少し上

仲佐:「ゾク」っとした話の続きだと、先日会社のスタッフと六本木ヒルズのRIGOLETTO BAR AND GRILLに初めて行ったんです。予約を入れようと電話をかけたら、「はい、仲佐さま。いつもありがとうございます」って……。まだ一度も行ったことがないのにだよ。ゾクっとしない?(笑)銀座にあるDAZZLEなら何度も行っているからわかるんだけどね。ということは、他店の情報がこちらでも共有されてるのかな?

新川:HUGEファミリーですから!(笑)僕は「認知」ってすごく大事だと思っているんです。例えばデパートやレストランに電話して、いつまでたっても「お電話ありがとうございます、レストラン○○です」ってマニュアル通りに答えるのはもう、時代遅れだと思うんです。DAZZLEの時はそれ踏まえた上で、顧客プロファイリングのシステムを作った。仲佐さんから電話がかかってきたら、即座にシステムが電話番号を照合して仲佐さんのデータが目の前に表示されるようにしました。

実は同じことをRIGOLETTOでもやると決めたとき、全員に反対されたんです。「DAZZLEのような客単価の高いお店ならわかるが、一皿300円のタパスを出す店では過剰投資になる」って。けど、それを押し切った結果、仲佐さんが「ゾクッ」ってしてくれたでしょ。(笑)

僕が飲食業界の中で繁盛店を作るのがうまくて、お客さんを引き寄せられる理由。それは単純なことで、「お客さまの期待値よりの少し上のこと」をやっただけなんですよ。自分で言うのも何ですが普通、RIGOLETTOのようなお店で着席時に、ウエイターが椅子を引いたりはおそらくしないですよね。また、「こんな店で、二回目に来店する人のことを覚えているわけない」と思うわけです。けど、「何で客単価3000円のお店でここまでやってくれるの?!」って思っていただいた結果、今の成功に結びついてると思うんです。

しかしRIGOLETTOの場合は「ヒットアンドエラー」で、毎回「仲佐さん、ありがとうございます」という対応はできない。夕方の4時という夜の準備であわただしいときとか、目の前に顧客システムが無い時は難しい。けれど、RIGOLETTOならその分、サービスで許される許容範囲がある。無理のないところで、ウチがちょっと頑張っているだけなんです。これは僕が大事にしていることで、あえて妥協したくないところです。

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六本木ヒルズで167坪の挑戦

photo仲佐: RIGOLETTOの出店場所は吉祥寺、銀座、丸の内、仙台、そして今回なぜ六本木、しかも六本木ヒルズに?

新川:競争も激しい六本木で167坪という大箱を運営するっていうのは、かなりの挑戦ですよね。けど勝算はあるし、今でも間違っていないと確信しているんです。六本木ヒルズの上の森タワーには就業人口9000人。また、六本木を一日を訪れる人が地下鉄の出入りを除いても7万人いるんです。この数字、一つの市町村で言ったら「町」のレベルですよね。そんな「町」の中に、週に一度のペースでTPOで使い分けられる、使い勝手の良い店を作ったら当たるんじゃないかと。500円のビール一杯で2時間過ごすバーのような使い方もあれば、600円のペペロンチーノと水という、お昼の喫茶店のような使い方もある。それぞれの単価は低いかもしれないけど、それで良いんです。一人一人のお客様をニーズを大事にして地道にやっていけば、機会がある時にROGOLETTOでパーティーもやってくれるだろうし、お父さんお母さんが来た時に夜に連れて行こうって思ってくれる。親しみをもってくれるわけです。一つのレストラン形態が、様々な社交の場を提供しているって面白いじゃないですか。(笑)

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サービスの原点

仲佐:しかし新川さん、本当に楽しく話すよね。(笑)

新川:やっぱり楽しい、ワクワクするってこの業界で生きていく上ですごく大事だと思うんですよね。上場してガンガン売り上げのばしていくことも目標としては有りですが、僕はちょっと違う。現場からたたき上げの僕は、サービス原理主義。そもそもサービス業は右脳的、能動的、本能的じゃないですか。そもそもムダの連続なんです。「お冷やちょうだい!」っていわれてお冷やだせばそれはそれで成り立つのですが、「ひょっとしたら今日はコーヒーをもう一杯飲むかもしれないから、お冷やじゃないかな」と考えるわけです。こう先取りすることって、ムダの連続じゃないですか。でもそれを楽しんでやる人を集めないと、ウチのような会社は成り立たない。それで、そういう人達はカネでは動いていない。本能ですよ。どれだけのワクワク感をそこから得られるか。そこにチカラを注いでくれている。そんなスタッフを集めるのは大変だけど、そこで育っていく人間を見ていると、こちらもワクワクする。今後もこの右脳的モチベーションを主体としてどれだけのワクワクを積み重ねられるか。そんなことを考えるだけでますますワクワクしませんか?!(笑)



文:柳澤大樹(フリーエディター) 編集:大原信子(株式会社ナカサアンドパートナーズ)

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