この表現で代表的なのが、ダイニングスペースで最初に目に入る円形の厨房だ。ガラス張りの厨房にはその日に提供される魚介類がひしめくように陳列されている。
「国籍を問わず、この厨房をはじめてみるお客さんは、びっくりしますよ。みんなWhat’s this?って聞いてくるのですが『A little market』(ちょっとした市場だよ)って答えるようにしています。」
従業員の一人が笑顔で説明してくれた。日本人のシェフがこう続ける。
「このように外に見える形で陳列すると、お客さんも『欲しい!』と思ってくれる。一つ一つには値段を書いていないけど、みんな興味本位でどんどん注文してくれるので、客単価が上がる。助かっていますね。」
デザイナーの視点からは厨房をこう見ている。
「鉄板焼きはもともと生の物を焼くこと。生の食材を市場から持ち出し、調理し、食べるまでの一連のプロセスやライブ感を見せたかった。」
デザインが店のオペレーションに良いシナジーをもたらした、例の一つであろう。
吉良にはバルコニースペースもあり、外からは対岸のカジノが密集するエリアが見渡せる。このスペースは日本庭園が下地になっており、尾形光琳の屏風絵、燕子花図がモデルとなっている。
「ここの環境特性は屋上から見える夜景。庭園を作る際には、庭園をあえて借景として捉え、周りに広がる世界をさらに増幅されるよう配慮しました。庭園のみで空間が完結するのではなく、周りのものをとりこむということ - 垣根の向こうの山間の景色も一つの庭との連続性があるのです」
そして、橋本氏はこう続ける。
「日常のマカオという土地があるからこそ、この場がマカオの中での非日常性として存在する。連続性があるのです。この場からもマカオの日常を担う新たな勢いが生まれればと思います。」
夜11時から始まった撮影も、明け方に。撮影も終わりに近づいた頃、従業員の一人がこう耳打ちしてくれた。
「実は写真だけ撮りにお店を訪れる人が絶えないのです。そんな風にお店の存在を認知してもらうのも嬉しいですね。」
時刻は朝6時。今日も12時間後には、円形厨房に今日の食材が並ぶ。
そして非日常を、またある様々な解釈の「日本らしさ」求めて、客が訪れる。
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