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Vol.06
橋本夕紀夫のデザイン視点にせまる!
香港・マカオ 特別レポート
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外国人があえて日本人のデザイナーに仕事を発注するとき。そこには何らかの「日本らしさ」を求めている。

最近ではザ・ペニンシュラ東京の内装デザインを手がけるなど、国内外で幅広く活躍するデザイナー・橋本夕紀夫氏。橋本氏はこの「日本らしさ」の要求に対して、どのような答えを持ち合わせているのだろうか?

その答えを導くため、橋本氏が香港・マカオで手がけたプロジェクトの撮影現場を取材しました。橋本氏のインタビューをまじえて、スペシャルレポートをお届けします。(2007年11月)


Report Part 1 : Hong Kong
 中国の多様性を店内で表現
 騒音と共に始まる撮影。生まれる新たな視点
 ミクスチャー=和の概念

Report Part 2 : Macau
 天政 - 日本のブランドを海外に輸出
 リアリティに満ちた撮影
 吉良 - 異国目線の日本を
 デザインが付与したお店へのシナジー
Interview : Designer 橋本夕紀夫



Report Part 1 : Hong Kong

 現在、香港では多数の都市開発プロジェクトが同時進行で進んでいる。その開発で脚光を浴びているのが「Union Square」だ。九龍半島の西部に作られた埋め立て地、1200万平方フィート(111万平方メートル)の敷地に、住居、ショッピングモール、ホテル、オフィス、駅などが建設される。最も高い建物(484メートル・118階建て)となるInternational Commerce Centre(ICC)は2010年に完成予定。ICCにはオフィスの他に高さ425メートルの位置にロビーを設けるリッツ・カールトンが入居する。隣の棟には世界的にホテルを展開するスターウッドグループのブティックホテルブランド「Wホテル」が2008年春に開業予定だ。

 この地区では、1998年に香港島や空港までを繋ぐ九龍駅が操業。2000年から現在にかけては高級マンションが相次いで竣工したが、商業エリアの尖沙咀から離れていたため(徒歩約20分)、開発初期のお台場のように寂しい印象が漂っていた。

 この環境に変化をもたらしたのが今年10月1日に開店したショッピングモール「ELEMENTS」だ。九龍駅の真上に位置し、200以上の店舗を抱える大規模なモールだ。その中の1つのレストランが1973年に創業した中国料理の老舗店「LEI GARDEN」で、デザインは橋本夕紀夫氏によるものだ。

 今回、ナカサアンドパートナーズは橋本氏の依頼により、LEI GARDENの竣工記録撮影を担当。グランドオープンを間近に控えた店内を訪れた。

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Report Part1 : Hong Kong
中国の多様性を店内で表現

photo 店に足を一歩踏み入れると、従来の中国料理店とは全く異なるデザインに気づく。典型的な香港の大箱系レストランは、大部屋に白ベースの壁、天井を設え、均一のインテリアで統一されている。それに対し、LEI GARDENELEMENTS店は複数のデザイントーンを持ち合わせている。上海の古屋をイメージした空間、白基調の中国の宮廷を思わせる空間、また大部屋には壁面に竹林や山水の模様が描かれている。まるで文化的側面から見た中国という国の小宇宙を見ているようだ。

 橋本氏はデザインへのアプローチをこう説明する。
「今、中国は伝統的な文化の中に、ハイテクやラクジュアリーといった新しいモノが急激に入りこんでいます。香港という街を見てもハイテクなビルの中の合間に、昔ながらの情景が共存しています。このような二面性、共存性を店内に取り入れました。」
上海の古屋をイメージしたというエリアは、
「実際に上海から古屋を移築しようと思いましたが、最終的に断念しました。」
とリアリティをとことん追求しようとした。

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Report Part1 : Hong Kong
騒音と共に始まる撮影。生まれる新たな視点

photo 店の奥へさらに足を進めると、この小宇宙から一時解放される状況にでくわした。やけに騒がしいのだ。よく見渡すと工具を手にした作業員が叫びながら壁や床の作業を進めており、一方では家具やドアの搬入が慌ただしく行われている。また、天井の一部が抜けていたり、パーティションの隙間が空いていたりと開店まで100時間を切った状況とは思えないほどの「現場感」が漂っている。(ある意味、この騒々しさも中国っぽいと言えばそうなのだが。)

「大部屋はほぼ完成形だから、なんとか撮れるかな。」
 今回撮影を担当するカメラマン、中道が周りを見渡しながらつぶやいた。グランドオープン直前の商業施設ELEMENTS。深夜だというのに多くの店舗で突貫工事が行われていた。まだLEI GARDENは進んでいるほうなのだ。

 デシベルの高い環境の中、中道は、機材を手にして撮影を開始。興味深いのは普段の客の動線や目線では着目しないアングルからも、撮影をしていることだ。窓枠のパターンの合間や、壁と照明の隙間にカメラを向け、撮影。ポラロイドを見ると、レストランの良さが際だつ、「新たな視点」が現れる。

「橋本さんのデザインの面白いところのひとつが、境界のデザインにいつも新しい工夫があります。だからその間に入って見たくなるんです。そうすることで対比された世界が見えたり、カメラ側の照明を消して見ると、明るいときには気がつかなかった何かが発見出来たりとか。だから現場ライブで面白い!」と、撮影の中での楽しさを中道は語った。

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Report Part1 : Hong Kong
ミクスチャー = 和の概念
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LEI GARDENオープニングセレモニーにて

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 橋本氏が手がけるLEI GARDENの店舗は実は二店目。2005年に金融街のセントラルにあるInternational Financial Centre店のデザインを手がけたのがそもそものはじまりだ。橋本氏は日本人が異文化圏の異文化料理店を手がけることに対して、こう語る。

「地元の文化に属していない人が、あえてデザインを手がけることにより、その文化が潜在的に持つ良さを引き出すケースがあります。そもそも日本の文化はもともとミクスチャーの歴史で成り立っています。アジア、欧米から入ってきたものをうまく取り入れ、日本のものとしてきました。そもそも『和』という概念は様々なものを取り込み、調和していくもの。そのような意味で考えると、日本人はデザインの観点からも新たな視点を見いだすのに長けているのかもしれませんね。」

 撮影が進む中、他の部屋の工事も撮影に耐えうる程度に完成してゆく。最終的には、全てのスポットを押さえることに成功。最後の撮影スポットとなった、入り口にある数万個から成るクリスタルビーズのディスプレイ。ビーズの上からつたわり落ちる水がビーズにきれいに反射し、見る角度によって様々な顔を見せた。

 ちなみにここ、LEI GARDENの料理は広東料理、上海料理、北京料理という枠を隔てた中国料理をサーブすることで有名だ。

 水のディスプレイや提供される食事の見せる様々な顔 ー まるで橋本氏のデザインと共鳴するかのように、「多様な姿」を一つの空間で表現しているかのようのだ。


Report Part 2 : Macau

 元々は漢字の「三」のように北から、中国大陸と隣接するマカオ半島、タイパ島、コロネア島という編成のマカオだが、マカオ政府はタイパ島とコロネア島の間、約80ヘクタールを新たな開発の拠点として埋め立てた。二つの島を一つ併合してしまったのだ。

 この一帯を二つの島の頭文字をとったコタイ地区と呼び、中心を走る目抜き通りをコタイ・ストリップと名付けた。目指すは言うまでもなく、ラスベガスのストリップで、現在、通り沿いでカジノとホテルの建設ラッシュが進んでいる。

 20世紀中盤からはじまったマカオのギャンブル産業に変化が訪れたのは2002年。これまではスタンレー・ホー氏が率いるマカオ旅行娯楽会社の独占事業だったが、米国資本と香港資本の二社にも門戸が開かれた。その結果、こぞってカジノとホテルの新規参入が相次いだ。

 古参のスタンレー・ホー氏も負けてはいない。今年5月に6星ホテル・カジノ施設「CROWN MACAU」を開業させた。客室は全てが60平方メートル以上で、宿泊料も最も安い部屋が一泊平均6万円。また、この客室のレベルに恥じない高級レストランが4軒入居している。その中の2軒の日本料理店「天政」と「吉良」のデザインを担当したのが橋本氏だ。

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Report Part2 : Macau
天政 - 日本のブランドを海外に輸出

photo 「天政」は昭和11年に東京・小川町で創業し、現在は丸ビルと羽田空港に店舗を構えるお座敷天麩羅の老舗。スタンレー・ホー氏が実際に丸ビル店に出向き、その食事とサービスに感動。後に出店を打診したという。

 初の海外出店となった天政だが、店舗のデザインを行う上で、ホテル側とお店側で意見の食い違いがあった。ホテル側はバー・スペースと座敷を融合したデザインを希望したが、お店側は日本にある店舗をそのまま持っていくことを希望。ホテルと店の狭間に立ったデザイナーの橋本氏は、この事態をこう解決させた。

「この件に関しては、天政の意見を最優先にしました。歴史のある日本の一ブランドを海外に持って行くということ。そのプロセスの上で、外部の中途半端な意見を聞く必要はありません。ルイ・ヴィトンやプラダが、オーナーとなる百貨店の要望をいちいち聞いているかというと、そうではないですし。お店が希望する形態でやるからこそ、ブランドの力を持つわけです。」

 すでに存在する店舗、デザインの雛形あった本プロジェクト。橋本氏として独自のクリエイティブを発揮したのは「金の庭」だ。木、石、全てを金色に施した。

「金は縁起が良いし、ギャンブルの街、マカオらしい。また、お客さんにとってはビジュアルのインパクトから天政のことを『あの金の庭園』のある店という覚え方もしてもらえます。石の代わりにチップを入れるなんでアイディアもありましたけどね。トレビの泉みたいに、あらかじめ何枚かチップを入れておけば、段々貯まっていくかもしれません。」



Report Part2 : Macau
リアリティに満ちた撮影

photo 天政LEI GARDENとは異なり、すでに営業している店舗。そのため、撮影は店を閉じた深夜に行われた。撮影に立ち会ってもらった現地のフロアスタッフにその場で交渉し、割烹着と帽子を身にまとってもらい、板前さんとして撮影に「参加」してもらった。

 モデルを入れてシルエットを作るプロセスも、実際の営業時の動きと同じように忠実に行われる。当初は通路から天麩羅厨房に入っていく姿を撮影しようとしたが、「お座敷に客がいないのに、外から天麩羅厨房に入るのはおかしい」ということで、厨房から通路に出る方向に変更。

その時、中道は別の店員に問いかけた。

「板前さんはいつも裸足ですか?」

 モデルが履いている黒い靴下を見て、素朴に疑問に思ったのだ。しかし実際に板前さんも靴下をはいて仕事をしているということで、そのまま撮影は継続。

撮影が終ったのは朝の4時半。気がつけば撮影は5時間に渡っていた。



Report Part2 : Macau
吉良 - 異国目線の日本を

photo もう一つの日本料理店「吉良」はホテルが運営するレストランだ。店名は連想ゲームのような形で生まれた。CROWN MACAUは各階にそれぞれのコンセプト持っており、吉良のある10階は太陽。その「キラキラ」から「吉良」という名前になった。漢字の「吉」「良」、どちらも縁起担ぎにもなっているとのことだ。

 竹をイメージした店内は「日本、中国の両方のシンボリズムとなるもの」から採用したという。店内へ足を一歩踏み入れると、近未来的な竹林のイメージが一面に広がる。

 吉良のデザイン表現を橋本氏はこう語る。

吉良を設計するに当たっては外国人になったつもりで考えていきました。はじめて日本に旅行に行った時に、様々な面白いモノに出会い、その記憶を具現化したような感じですね。外国人目線であるが故に、純粋な日本的表現は無いかもしれませんが、モチーフは継承されている。エントランスのガラスの竹の表情や、同じ竹でも竹籠を編んだものをスクリーンとして活用したりと、本来使われないような用途に使用している。普通、日本では思いつかない日本の面白さをマカオに持ち込んで再構築しました。」



Report Part2 : Macau
デザインが付与したお店へのシナジー

photo この表現で代表的なのが、ダイニングスペースで最初に目に入る円形の厨房だ。ガラス張りの厨房にはその日に提供される魚介類がひしめくように陳列されている。

「国籍を問わず、この厨房をはじめてみるお客さんは、びっくりしますよ。みんなWhat’s this?って聞いてくるのですが『A little market』(ちょっとした市場だよ)って答えるようにしています。」

 従業員の一人が笑顔で説明してくれた。日本人のシェフがこう続ける。

「このように外に見える形で陳列すると、お客さんも『欲しい!』と思ってくれる。一つ一つには値段を書いていないけど、みんな興味本位でどんどん注文してくれるので、客単価が上がる。助かっていますね。」

 デザイナーの視点からは厨房をこう見ている。

「鉄板焼きはもともと生の物を焼くこと。生の食材を市場から持ち出し、調理し、食べるまでの一連のプロセスやライブ感を見せたかった。」

 デザインが店のオペレーションに良いシナジーをもたらした、例の一つであろう。

photo 吉良にはバルコニースペースもあり、外からは対岸のカジノが密集するエリアが見渡せる。このスペースは日本庭園が下地になっており、尾形光琳の屏風絵、燕子花図がモデルとなっている。

「ここの環境特性は屋上から見える夜景。庭園を作る際には、庭園をあえて借景として捉え、周りに広がる世界をさらに増幅されるよう配慮しました。庭園のみで空間が完結するのではなく、周りのものをとりこむということ - 垣根の向こうの山間の景色も一つの庭との連続性があるのです」

 そして、橋本氏はこう続ける。

「日常のマカオという土地があるからこそ、この場がマカオの中での非日常性として存在する。連続性があるのです。この場からもマカオの日常を担う新たな勢いが生まれればと思います。」

 夜11時から始まった撮影も、明け方に。撮影も終わりに近づいた頃、従業員の一人がこう耳打ちしてくれた。

「実は写真だけ撮りにお店を訪れる人が絶えないのです。そんな風にお店の存在を認知してもらうのも嬉しいですね。」

 時刻は朝6時。今日も12時間後には、円形厨房に今日の食材が並ぶ。

 そして非日常を、またある様々な解釈の「日本らしさ」求めて、客が訪れる。



Interview : Designer 橋本夕紀夫

海外進出のきっかけと、そして香港の今後

photo私が最初に手がけた海外のプロジェクトは台湾のファイブスターホテル、「グランド・フォルモサ・リージェント・タイペイ」内に入居する中国料理レストランでした。海外の仕事を始めるにあたり、何らかの前触れがあったというわけでもなく、いきなり事務所に電話がかかってきました。「明日、台北に来ることができるか?」とお願いされびっくりしましたが「明日は無理だけど明後日なら」と返事をして。この一本の電話がきっかけで、後に同ホテル内のレストランを数軒手がけることになりました。これが海外進出の原点です。

デザインの際には海外、国内を問わず、それぞれの土地が持っている雰囲気を大事にしようと思っています。日本でも東京でやるのか地方でやるのか。東京一つをとっても銀座なのか、新宿なのかで全くアプローチが変わってくる。その場が持っている空気を大事にして、そこからインスピレーションを得てデザインをしています。

今回は香港とマカオの物件を手がけました。香港は世界の中でも、独特の洗練された都市空間を持っています。香港はイギリスの支配下に入ってからは、中国本土とは異なる独自の歴史を道を歩んできました。ある意味、純な中国ではないですね。その反動か、返還後の今は中国に統合され、本土との接点を見いだそうとしている気がします。

香港はすでに一度完成してしまった街ですが、その土壌から新しい街を発展させていくとなると、今後は中国的なイメージやメッセージを入れていくことが大切ではないかと思います。

そのような意味では、中国の一番良い部分をもっと抽出していくべき。たとえば本土の代表、上海のエッセンスをいれていくこともできますよね。上海は西洋と中国の文化が入り乱れながら、独特の世界作ってきました。この本土と香港が作り上げた「洗練」の融合によって、より都市としてのシナジーを生むのではないかと思います。

橋本 夕紀夫
橋本夕紀夫デザインスタジオ デザイナー
女子美術大学・同短期大学部非常勤講師/愛知県立芸術大学非常勤講師
1962年 愛知県生まれ。1986年 愛知県立芸術大学デザイン学科卒業。スーパーポテト勤務を経て、1996年 橋本夕紀夫デザインスタジオ設立。「橙家」(銀座)、「蘭亭」(台湾・台北)、「過門香」(銀座一丁目)、「BEAMS HOUSE」(丸の内)など数多くの店舗を手がける。2005年には香港Pace Publishing Limitedより書籍「The Design World of Hashimoto Yukio」を出版。



文:柳澤大樹(フリーエディター) 編集:大原信子(株式会社ナカサアンドパートナーズ)

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