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Vol.05
本日のご注文は“頭の中を想像する”
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客人:渡辺真理、木下庸子
設計組織ADH 
オーダー請負人:中道淳
ナカサアンドパートナーズ


4月下旬の連休直前、ナカサアンドパートナーズの中道の元に、設計組織ADHの渡辺真理氏から電話が入った。
「JIA(日本建築家協会)から、作品を写真で展示してほしいと頼まれて・・・。協力してもらえないだろうか?」
この時、中道は出張中。「帰京してからゆっくり考えればいいかな」と思いきや、展示開始は連休明けてすぐだという。「聞かなければよかった・・・」と、つい本音がでてしまう中道。しかしながら、渡辺氏とは作品撮影を通じて10年以上の交流がある仲だ。請け負ったからには見ごたえのあるものに仕上げたい。限られた時間の中で、どのような作品を導き出せたのだろうか?(2007年6月)


建築家の頭の中を視覚化

色が無いからこそ想像力を刺激
物事の曖昧さに見る面白さ
愛情に満ちたスケッチのような作業
建築と写真のプロセスに見る共通言語
ご注文の品、完成!


渡辺真理渡辺真理(わたなべまこと)

設計組織ADH代表・法政大学デザイン工学部建築学科教授

1950年、群馬県生まれ。77年に京都大学大学院、79年にハーバード大学デザイン学部大学院修了。81年、磯崎新アトリエに勤務、87年に設計組織ADHを設立。


木下庸子木下庸子(きのしたようこ)

設計組織ADH代表・工学院大学工学部建築学科教授

1956年、東京都生まれ。77年スタンフォード大学卒業、80年ハーバード大学大学院を修了。81年、内井昭蔵建築設計事務所勤務の後、87年に設計組織ADHを設立。



「建築家の頭の中を視覚化」

photo中道:今回の展示を考えた時「建築家の頭の中をイメージした写真にしよう」というアイディアが浮かびました。一つ一つの建築作品を作る時って、様々な要素が頭の中で交差するじゃないですか。そんな様子を一枚の写真で描けたらなと。
まず思ったのは、「見に来た人が、何を見て面白いか、何を感じてくれるか?」ということ。それならいつも撮っている写真で展示を行っても、面白くないだろうと感じました。そうこう頭をひねっているうちに「作品に携わる時、まず最初に建築家がすることって何だろう?」と考えるようになって。そこで思い浮かんだのが「見えない物」という考え。「見えない物」って想像力を必要とする訳ですよね。写真で言えば、写ってない余白の部分。それで「『見えない物』っていうのは渡辺さんの頭の中だったり、(木下)庸子さんの頭の中だったりするのかな?」と、ふと思ったのです。そうしたら、内と外の関係などの要素があるのですが、「これらの要素をスーパーインポーズして一枚の中に表現してみたら、建築家の頭の中になるのでは?」と。そこで、一枚サンプルを大急ぎで作ってみました。そうしたら渡辺さんが、「うん、いいんじゃない!」と。

photo渡辺:単純に写真を2メートル×1メートルの縦位置にトリミングして、一個の部分を出すというよりは「スーパーインポーズする」という考えはいいなぁ、と思いました。このような手法は言われている程やられてないしね。多くの人は「言われてみれば、何てこと無い手法。今の時代なら普通に出来る」って考えるかもしれないけれど、実際にやってみるとやっぱりその面白さがある。瞬間のひらめきとかアイディアが大切ですしね。コラージュにしても子どもでもできるけど、やはり専門家がやったら専門家がやったなりの出来栄えになりますからね。
パピエ・コレ(注1)」(コラージュ)がちょうど100年位前に生まれたんですよ。キュビズム(注2)の成果としても知られていますが、キャンバスにオブジェとしての紙を貼付けることで、表現の領域が広がった。今回の作品もさりげない提案だけど、ここからまだまだ様々な表現ができると思う。今回の作品もそのさりげない提案ではあるけれど、これからまだまださまざまな表現ができると思う。この作品は「パピエ・コレ」にちなんで「フォト・コレ」と命名してはどうですか?

木下:中道さんが考えた「建築家の頭の中」の表現は、すごく面白いと思いました。私達は設計しながら必ず「部分と全体」、「全体と部分」っていうのを、それは表裏みたいな関係で見つめています。どこかの部分だけを見つめながら、全体もイメージしている。全体でどう見えるかっていうのは、必ず両方を行ったり来たりしているので、まさにこの作品は全体と部分が共存している。全体と部分を行ったり来たりするのを一つの紙面に表現したというのは、建築家としてすごく斬新。面白いなと思いました。

<※注1>
パピエ・コレ
キャンバスに紙や物を貼ったり、あるいは、その上にまたペインティングする美術上の技法。ピカソなどが発案。

<※注2>
キュビズム(立体派)
様々な角度から見た物の形を一つの画面に描き、立体的な物全体を平面上に表現しようとする試みのこと。

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「色が無いからこそ想像力を刺激」

photo木下:やはりモノクロの良さってありますよね。カラーだと色に気をとられるっていうのか、気が散るっていうのかな?モノクロだとグーッとイメージに引き込まれる。

中道:色がない分、色を想像する余地がありますね。

渡辺:想像力を刺激するね。

中道:最初のテストの段階ですでに、僕の頭の中ではモノクロでした。想像した時、色なんて無いんじゃないかなと思って。

木下:そうですね、色は無いです。私が空間を考える時には、必ずしも色とドッキングしている訳じゃないですし。

photo渡辺:建築のエッセンスを考えてもらうときには、色ももちろん重要だけど、今回のようにモノクロで表現した方がいい場合もありますよね。というのは、このような形で表現することで、もう現実をそのまま見せているのではない。「現実をありのままを見せているのでは無い」ということがまず伝わる。その現実を様々な意味で再構成しているということが観る人に伝わるから、観る側にも色々な解釈が出来る訳ですよね。
実際、展示会に来た人達は建築の専門家、専門家でない人を問わず不思議な親密感があったみたいです。建築写真は実は専門家以外は理解しにくいところがある。
ところが、この作品はマルチな視点があるから、見ることの自由度があるのではないかと思うのです。そういう意味では、観る側にとってもアクセスしやすいのでは?と思いますね。

木下:自分達で設計した建物だからなおさらのことだと思うけど、観ていて飽きないというか、見れば見る程、「ああ、この部分はここなんだな」と思ったり、人によって注目するところが色々違ったりする。まさにアートって、そういう所があるじゃないですか? 自分の体験や経験と組みあわせることができる。この作品はそのような要素があって、パッと私が見ても「それはそれで面白いな」とまず思って、またじっと見ていると、「あぁ、あれもあるんだ。あそこはああいう風にしたんだ」と、どんどん、どんどん見えて来る。アートの作品のように奥が深く、それが私はすごく楽しい。

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「物事の曖昧さに見る面白さ」

photo渡辺:この写真を通じて何か全体がちょっと曖昧になる感じがするわけです。それが、僕はちょっと面白いのではと思う。
「曖昧」って、悪い意味の曖昧ではないですよ。例えば、今回の作品の一つ、「アパートメンツ東雲キャナルコート」をどのように理解しているかと言うと、突き詰めるとやっぱり、建築理解で何か曖昧なところがある訳です。ある一つの棟をみているとあたかもそれがパシッと完成系という感触を受ける。
しかし、この作品を見るとぼくたちの印象として「こういうのもあったけど、こういう要素もあって、こういう要素もあるんだな」っていう感触がある。杉本博司さん(注3)のあのボケボケの写真があるでしょう? あれが良いのは、中道さんの作ってくれた作品とは違った意味で、建築のエッセンスみたいなものがちょっと、ボケボケしている中に出て来る。あれはわざわざフォーカスしないで撮っている中に出て来るものを表現している訳だけど、それが良き曖昧さを感じさせてくれて面白い。

木下:杉本さんの写真も私には同じで、バシッと焦点が合った建築写真を見るよりは、ボケボケになったときに突然、何か自分のイマジネーションがもっと刺激される。もっと想像力を働かせられる効果のようなものがあります。

渡辺: さっきいろいろアクセスする入り口が多いという話をしたけど、それも曖昧さと関係していて、曖昧さという概念は、20世紀のアートの試行の中で発見された重要な概念のひとつ。だけど今回、中道さんは我知らずそこに到達しちゃった。それも結果として面白い。(笑)

中道:天才的だな。ハハハハ。(笑)

渡辺・木下・中道:(笑)

渡辺:でも、到達する時って、偶発的なものじゃないですか?

中道:意外とそうかもしれませんね。

<※注3>
杉本博司
1948年東京都生まれ。ニューヨークと東京を拠点に活動する写真家。主な作品は、世界的に有名な傑作建造物に取り組んだ“建築物”シリーズ、光そのものをテーマにした“劇場”シリーズなど。1989年「毎日芸術賞」、2001年「ハッセルブラッド財団国際写真賞」受賞。

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「愛情に満ちたスケッチのような作業」

photo中道:建築プロジェクトを始められる際に、お二人はCAD を使われるんですか? それともスケッチで描かれるんですか?

木下:私はCAD はあまりにも遅いから、スタッフに任せています。

中道:すごい! コンピューターより早い手なんだ!(笑)渡辺さんもスケッチを描かれるんですか?

渡辺:そうですね。

中道:スケッチ描いているときがいちばん楽しい時じゃないですか? 何も無いところから、想像して描いていくわけですよね。

木下:楽しいけど苦しい作業ですね。

渡辺:それはフォトグラファーにとって、シャッターを切るときと同じじゃないですか? 時間の制約があるでしょ。ぼくたちも永遠にスケッチをやっていて良いわけではありません。

中道:実は今回の作業は感覚的に建築家の言うスケッチと似ていました。1枚出来て、2枚出来て、3枚出来て、4枚出来てと、すごく楽しかったです。想像しながら手を動かして。「あの写真とこの写真をこうすると、表裏一体になる!」とかね。

木下:この4枚、全部中道さんがコンポジションを考えたのですか?

中道:はい、考えました。

木下:でも、中道さんが実際に建物をご覧になっていないものもありますよね?

中道:そうなんです。だけど、写真見ているとどんどんアイディアが出て来たのですよ。お二人のエキスというのかな? お二人を長いこと存じているので、写真からにじみ出てくるもがあるんですよ。ある種の愛情ですね!

木下・渡辺:(笑)

渡辺:中道さんね、写真好きだから! おそらくぼくたちへの愛情より写真への愛情ですよ!

木下:「建築家を愛して撮る」っていう発言は、やっぱり撮るものをかなり熟知して、それでその建築家の意図をくみながらじゃなきゃ撮影できないですよね。

渡辺:けど、中道さんが「愛」で答えてくれたから、実際にこのような良いものが生まれましたね。(笑)

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「建築と写真のプロセスに見る共通言語」

木下:中道さんが「建築家を愛して撮る」と言ってくれたけど、やっぱり撮るものをかなり熟知して、それでその建築家の意図を汲みながら撮ってくれるっていうスタンスが多分、本作品の根底にあると思うのです。

中道:僕は写真を撮り始めて30年になりますが、ずっとナカサアンドパートナーズとやってきたので、今のスタイルしか知りません。「俺が、俺が」と我を主張する撮影ではなくて、まずは建築だったら、その建築家の意図を汲み取ることが大切ですね。

木下:そのスタンスは私たちの建築のアプローチに似ていると思います。特に住宅においては「これが我々のスタイルだ」という外観的なスタイルとかは強く持っていません。むしろ私たちはクライアントとの話の中から「この人にはどういう物がいいか?」というのを探っていく。ある種精神科医っぽいところがあります。
中道さんが、「建築家が思ってもいなかったアングルが探れた時の面白さ」みたいなものが、私たちも設計のプロセスの中であるのです。例えば、住宅。ご夫婦のクライアントと話をしている時に、あまり話さない方の顔を見て、その人が何を言いたいのかを探るというプロセスがとても面白い。この点は住宅を手がける上で面白い部分だなって思いました。中道さんのお話をお伺いして、また今回の作品を通じて撮影や写真に対するスタンスと、私たちが設計に持っているスタンスが少し通じるところがあるのかなって思いましたね。

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ご注文の品、完成!

ナカサアンドパートナーズがこれまで撮影した「設計組織ADH」の建築作品の中から、中道淳が撮影した「アパートメンツ東雲キャナルコート」、繁田諭が撮影した「IS House」「TK House」「多摩大学 湘南キャンパス校舎」の計4物件が選定された。それぞれの作品ごとに外観・内観など4、5点の写真を選び、コンピュータ画面上でスーパーインポーズ(重ね合わせ)の手法で作品を完成させた。

アパートメンツ東雲キャナルコート
IS House
TK House
多摩大学 湘南キャンパス校舎
上の各作品をクリックすると大きく表示されます

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JIA会員による建築家展「第4回 プロフェッサーアーキテクト展」
会期:2007 年5月7日〜11 日 会場:JIA館1F 小ホール


文:柳澤大樹(フリーエディター) 編集:大原信子(株式会社ナカサアンドパートナーズ)

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