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Vol.01
仲佐猛、キーマンとともに
客人:中島武
際コーポレーション株式会社 代表取締役
仲佐猛
ナカサアンドパートナーズ 代表取締役


空間デザイン・演出なくして語れない今のレストラン業界を、躍動させ続けてきたトップ経営者・中島武と、進化を撮り続けてきたトップカメラマン・仲佐猛。キーマンふたりが、いま、そしてこれからの思惑を、ゆるりと語り合った。(2005年6月)


関係

「仲佐さん、撮ってね」 思考・文化 凄味・抜け感 デザイナー


関係
青山は、とあるマンションの地下に潜む、妖しく重厚感漂うチャイニーズ・レストランのラウンジ。アンティークのソファに腰を沈めたボスふたり。しかし、これといって改まった気配もなく、「“問屋の白袴”じゃないんだから、人のお世話ばっかりしてないで自分のこともちゃんとやってください(笑)」と、冷やかし口調でHP開設を祝う中島さんに、「ックックック」と照れ笑いする仲佐さん。いつもの感じでゆるりと会話が始まった。では、ふたりの関係について、少し。

中島 「僕は福生をベースに物販や飲食店を展開していて、自分たちでガンガン壁を抜いたりペンキを塗ったり、といった手作り感覚の店をつくっていた。そして初めて都心に出店したのが今から十数年前。その後続けてレストランを出店しているうちに『商店建築』という媒体を知ったの。スタイリッシュなデザインのレストランがズラリと紹介されている雑誌で、僕とはまったく関係のない世界だと思っていたけれど、そのうち僕も一回ぐらい出てみたいと思うようになったわけ(笑)。しかもこれを撮っている男が“仲佐さん”というカメラマンだと知って、この人にも会ってみたいと。どうしたらこの人に写真を撮ってもらえるのだろうか? とか考えていたりしたら、誰かがいうの「あの人、いい店しか撮らないんだよね」って。本当かよぉ。いい店しか撮らないなんて、それはまいったなぁ、と思ったよね(笑)。その後何年か経って、丸の内に「胡同マンダリン」をつくった際、これは素敵な空間だと自負する店だったので、いよいよ撮影を依頼した。これが最初です」

仲佐 「こちらはその頃『商店建築』のエディターの角田さん(現『I’m home』編集長)に「仲佐さん、会ったらハマりますよ」って言われてた(笑)。その前にテレビで、自分で壁をぶち抜いたりして機関銃のようにダダダーッ!と店をつくっている中島さんの姿を見て、たぶん苦手だろうな……と。それが実際に会って何時間も経たないうちに、この人の為に何かやりたいなぁ、と思うようになっていた。要は、ハマったわけです」

中島 「一見、単なる品のないおやじがダダーッと荒削りに店をつくっているように見えると思うけど。実は意外と育ちがよくて、シャイな男なんです。根本的に、素敵なもの美しいものを常に求めるのは幼少の頃から。大人になって世界を廻った時期があって、美しいもの、それを人間が息づいている場所の中に感じるようになった。路地裏だったり、ストリートガールがいる街のような、人間臭い所にね。それが自分の中に染み込んで、アクの部分の価値観になった。店を作るときに、その強いアクの部分がどうしても出て来るんですね。仲佐さんと出会って、写真を撮ってもらって、そうしている間も僕はどんどん変化してきた。でも、これからの変化は少し大きなものになるんじゃないか、と感じています」

中島武に大きな変化……!? 気になる発言。中国の食文化、パンチある際の味を日本に浸透させた後、ここ数年は、和服の女将のいる粋で洒落の効いた和食店を展開してきた中島さん。なにを見据え、今度はなにを企んでいるのか。どうにも目が離せない存在、その引き出しの多さに仲佐さんは「ハマった」わけである。



中島武(なかじまたけし)

際コーポレーション株式会社 代表取締役。「紅虎餃子房」「胡同四合坊」など北京料理を中心に、パンチある中華の味を日本中に浸透させたレストラン業界の雄。現在の経営店舗数は250に及ぶ。 http://www.kiwa-group.co.jp


「仲佐さん、撮ってね」
 森田恭通、佐藤一郎、橋本夕紀夫、小坂竜……。日本を代表するトップのインテリア・デザイナーたちは、新しい物件を手がける際にこういう。「仲佐さん、撮ってね」と。後に話題となる完成したばかりのレストラン空間、そこで最初にシャッターを押しているのが、仲佐猛率いるナカサアンドパートナーズ。「NEW OPEN」と題してメディアで披露される数ヶ月も前のこと。デザイナーたちは「仲佐さんの眼は、鋭くてとても厳しい」と話す。前出の中島さんの話同様、レストラン界・デザイン界のトップのステージに立った暁にはあの人に撮ってもらう。そんなステイタシーな存在であるのが、仲佐さん。レストランのオープニングレセプションでデザイナーたちと談笑する姿は、どうにもあったかいお父さん、なのだが。

中島 「仲佐さんに“撮ってね”っていうのは、自分の中である程度自信がなくちゃいえないものなの。自信がない店のときは、実は仲佐さんに言わないでこっそりつくっていたりするんだよね(笑)。僕は商売人だから、“デザイン”でくくれるようなスタイリッシュな店ばかりとはいかないわけ(笑)。でもね、いま新橋につくっている店は、仲佐さん、ぜひ撮ってくださいね。今度のはそんなキザな店じゃないんだけど、おもしろい店だから。ARTをテーマにした店です」(「胡同文華 シノワホール」)

仲佐 「飲食の空間を撮ってほぼ10年ですかね。デザイン界、デザイナーたちの変化はいつも見て来た。ゆるやかに壁にぶつかったり。飲食空間のデザインがどうなのか、どうすればいいのか、ちょっと見えなくなってストレスが溜まると、僕は中島さんに会いに行く。そうすると、デザイン云々じゃなくて、伊万里がどうの、古九谷だ李朝だと、中島さんがいま考えていることをバーッと並べながら、今はこうだ、ああだと話してくれる。その度に、あぁ勉強しなきゃなと思うわけ。数年前にはプードル(犬の)だ、なんて言ってたこともあって、ワケわからなくて困ることもあるんだけど(笑)」



思考・文化
中島 「昔からレストランというのは、文化の伝導をしていたわけです。イタリアの食文化、中国の食文化を。それが、今はというと、食材にしても料理にしてもただの物売りになってしまっている。ショー的な“グルメ時代”から、真の日本の食の文化をきちんと戻そう。これが、いま僕が手がけている和食店のテーマです」

仲佐 「知性のあるレストラン、だね」

中島 「中華も、なんとかキュイジーヌといった創られたものではなくて“日本の中華”。日本の文化をしっかり融合させて、中華とコラボレートして、日本の文化として世界に発信する。日本の料理は本当に美味しいから、それだけの力があるんです。日本で中華料理よりだいぶ成熟しているイタリアンやフレンチを見るとわかるけれど、初めはネイティブの味・スタイルで浸透し、それから日本のイタリアンやフレンチに進化してステージアップしてきた」

仲佐 「紅虎餃子房の、あの味はまさにネイティブ。麻婆豆腐は黒くなきゃ、とか感じるようになっちゃったもんな。すり込みの典型だよ(笑)」

中島 「紅虎を始めた頃、日本の人たちは僕の中華を『味が変だ』とか「あれは中華じゃない」とか言っていたけれど、そういう店が今はうちみたいな麻婆豆腐や担々麺を作ったり、長い餃子作ったりしていたり。オリンピックもあって多くの日本人がこれから北京へ行って、料理を食べて『なんだ紅虎の味ってこれだったのか』って初めてわかるんですね(笑)。でも僕は、今度は日本人の中華を作ろうとしている。時代はどんどん変わって、僕自身が変わって、日本の中華も変わっていく」

仲佐 「じゃあ日本人の中華って、どんなもの?」

中島 「たとえば、新鮮な筍が採れたら、僕はそれを使いたいと思うわけ。缶詰の水煮を使うのが中華なわけじゃなくて、堀りたての香りも味もちゃんとする筍を使って、中華の調理をする。野菜も魚も本当に旬を刻んだものを使う。中国にはこういう料理もいっぱいあるのだけど、日本ではまだ認識されていない。そして、そんな料理を食べるとき、きわどい空間はいらない。お客さんを脅かすようなインテリアはいらないの。仲佐さん、今度はなんかやさしい感じの店つくっちゃったけど、ごめんなさいね。みたいなことになる(笑)。僕は、これからシノワーズの“スタイル”なんていらないと思う。人がそこにいて、楽しくて美味しくて。看板だけ変えりゃ、なんだ和食屋だった。みたいなね(笑)」



凄味・抜け感
仲佐 「中島さんは経営者であって、 “デザイン”で括って話すことはできないんだけど。中華だったり和食だったり、魯山人、李朝、現代美術にしても、その引き出しの多さに圧倒される。それぞれに文化の根っこの部分を持っていて、自分の中から湧き出させながら、いつもいちばんラジカルなところで動いている」

中島 「デザインというのは美しいもの。でも、美しいだけがデザインじゃない、という概念が僕の中にはあるんです。形に影響されるデザインではなくて、文化や思考を形にする。その世界に入ってしまうのがとても速いんですね。例えば、僕はこの数年で中華から和に変わりましたね。それはなぜかというと、僕の周りには和文化を伝承する凄い女性が沢山いる。いま尊敬する大好きな人たちは、みんな着物を普段から着ているような女性だったりする。すると僕はあっという間に着物の世界に入っていく」

仲佐 「もの凄いアクの強い中華の店をやっていたのに、『今度はこんなのやってみた』と京都のお茶家のような店を見せられても、真似ごとの匂いがしない。このリアリティは何なんだろう。これが中島さんにハマった最大の理由なんだけど、このキャパシティをデザイナーたちがもっているだろうか?」

中島 「デザイナーは、美しいものをデザインして、それぞれに自分の路線を変えることがなかなかできない。それは、デザイナー自身の人間としての環境が変わっていないだけ。コルビュジエが、かつて直線的なものを作っていたのに、後半は曲線を使うようになった。あれ、なんでか知ってる? 女性です。最後につきあった女性がとてもふくよかで柔らかい人だった。たとえばの話だけれど、そのぐらいの環境の変化の中に日本のデザイナーたちがいるか?ということ。破天荒なデザイナーがいなくなっちゃって、平穏にやっている。でもそんな人が、たとえばね、『なんかあいつ、今度はインドのすっごく美しい女性とつきあってるよ!』となれば、その彼はきっとつくる店もインドスタイルに変わる(笑)」

仲佐 「さっきも出たけれど、抜け感とか凄味は、大胆さや振り幅のキャパシティなんだろうな」



デザイナー
中島 「レストランのデザインは、全部出尽くして、まったく新しいものが出てこないと変化は生まれないでしょうね。仲佐さんも撮っていてそう感じてると思う。もう少し経つと“抜けて”くるんじゃないかと思って見ている。それが森田くん(デザイナー・森田恭通)なのか、小坂くん(デザイナー・小坂竜)なのか……」

仲佐 「橋本さん(デザイナー・橋本夕紀夫)が最近デザインした銀座の「水響亭」は、その抜けた感じがよかった。お、有望新人発見!と思ったら、橋本さんだった(笑)」

中島 「いま日本のトップにいるデザイナーに求めるものは、大胆さ。デザインの、というよりデザイナーとしての。バチッと1点に絞る大胆さ」

仲佐 「ミニマリズムのゆくえ」

中島 「そうですね。デコラティブに走っていくことでは解決つけられない。デコラティブは根本的な空間デザインとは違いますからね。でもデコラティブこそ、引く、削ぎ落とす大胆さが要る。それを誰かがやってくれないかな。僕は商売人になってしまっていて、なかなかその領域には行けないから(笑)」

仲佐 「でもデザイナーたちは、このへんで変化してくと思う。レストランも世界中のホテルも見尽くして、デザインもシャッフルされて出尽くしてしまったいま、もうモノ真似では通用しない。和の空間も、京都、茶、などのにわか勉強ではもうつらいでしょうね。だから、中島さんのアクの部分のように、身に染み込ませたオリジンが湧き出たような、そんなデザインを感じたい。それで、今度、コンラッド東京とリッツカールトン、マンダリン・オリエンタルとか外資の高級ホテルが東京に揃うでしょ。海外のデザイナーももちろんだけど、日本のデザイナーも起用するはず。それが、いま活躍している彼らの中から誰が選ばれるのか。これがいま僕にとって一番楽しみなこと」



構成・文 山岸英子(フリーエディター)